あなたのブレーキをアクセルに変える

懲戒処分が有効になる条件とは?就業規則・手続・客観的合理性を弁護士が詳しく解説

日野アビリティ法律事務所

「会社は就業規則に書いてあれば自由に懲戒処分ができるのでしょうか。」

「懲戒処分を行う前に、会社は本人の話を聞かなければならないのでしょうか。」

「懲戒処分が裁判で無効になるのは、どのような場合なのでしょうか。」

会社が労働者に対して懲戒処分を行うためには、単に「規則違反があった」というだけでは足りません。

懲戒処分は、減給、出勤停止、降格、懲戒解雇など、労働者に重大な不利益を与える処分です。

そのため、労働契約法や判例では、会社が懲戒権を適法に行使するための条件が厳しく定められています。

仮に従業員に一定の問題行動があったとしても、

・就業規則に根拠がない

・懲戒事由が曖昧である

・処分が重すぎる

・十分な調査をしていない

・本人に弁明の機会を与えていない

といった事情があれば、懲戒処分が無効と判断される可能性があります。

この記事では、懲戒処分が有効となるために必要な条件について、法律と判例を踏まえて詳しく解説します。

■ 懲戒処分は会社の自由ではない

会社は企業秩序を維持するために懲戒権を有しています。

しかし、その懲戒権は無制限ではありません。

労働契約法第15条は、

使用者が懲戒処分をすることができる場合であっても、

客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その懲戒処分は権利の濫用として無効となる

と定めています。(laws.e-gov.go.jp)

つまり、

懲戒処分が有効となるためには、

法律上の条件を満たしている必要があります。

■ 有効要件① 就業規則に根拠があること

最も重要なのが、

就業規則に懲戒処分の根拠があること

です。

労働基準法では、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則を作成し、懲戒に関する事項を記載することが求められています。

例えば、

・無断欠勤

・横領

・情報漏えい

・ハラスメント

・重大な業務命令違反

などを懲戒事由として定めている会社が多くあります。

就業規則に定めがない事項について、後から会社が独自に懲戒処分を科すことは原則として問題となります。

■ 有効要件② 就業規則が周知されていること

就業規則は存在するだけでは足りません。

従業員が内容を知ることができる状態に置かれていることが必要です。

例えば、

・社内イントラネットで閲覧できる

・事務所へ備え付けられている

・電子データで共有されている

などが一般的です。

一方、

会社だけが保管し、

従業員が一度も見たことがない就業規則を根拠として懲戒処分を行えば、

有効性が争われる可能性があります。

■ 有効要件③ 懲戒事由に該当する事実があること

当然ですが、

実際に懲戒事由に該当する事実が存在しなければなりません。

例えば、

「横領したらしい」

「誰かが言っていた」

「社長がそう思った」

という程度では足りません。

会社には、

客観的な証拠に基づいて事実を認定することが求められます。

証拠としては、

・メール

・チャット履歴

・防犯カメラ

・勤怠記録

・業務日報

・第三者の供述

などが用いられることがあります。

■ 有効要件④ 客観的合理性があること

懲戒処分は、

違反行為に対して合理的な理由が必要です。

例えば、

会社の重要な機密情報を持ち出した場合には、

厳しい処分が合理的と評価されることがあります。

一方、

数分程度の遅刻を一度しただけで懲戒解雇とするような場合には、

合理性が認められない可能性があります。

裁判所は、

違反行為の内容、

会社への影響、

故意か過失か、

改善可能性などを総合的に検討します。

■ 有効要件⑤ 社会通念上相当であること

懲戒処分は、

合理的な理由があるだけでは足りません。

処分の重さも問題になります。

例えば、

同じ無断欠勤でも、

一日だけなのか、

一か月以上なのかによって、

相当な処分は変わります。

また、

初めての違反なのか、

何度も注意されているのかも重要です。

このように、

処分の内容が社会一般の感覚から見ても妥当であることが必要です。

これを、

社会通念上相当性

といいます。

■ 有効要件⑥ 適正な手続を踏むこと

法律には、

すべての懲戒処分について統一的な手続は定められていません。

しかし、

裁判では、

適正な手続が行われたかどうかが重要視されます。

例えば、

・事実調査

・証拠収集

・本人への事情聴取

・弁明の機会

・懲戒委員会での審議

などです。

特に重い処分ほど、

慎重な手続が求められる傾向があります。

■ 本人に弁明の機会は必要か

労働契約法には、

必ず弁明の機会を設けなければならないという明文規定はありません。

しかし、

判例や裁判例では、

本人に全く説明の機会を与えず、

一方的に懲戒処分を決定したことが、

手続上の問題として評価されることがあります。

特に、

懲戒解雇など重大な処分では、

本人の言い分を確認することが望ましいとされています。

■ 同じ違反なら同じ処分であるべきか

会社には一定の裁量があります。

もっとも、

同じような違反について、

ある従業員だけ極端に重い処分を受ける場合には、

公平性が問題になります。

例えば、

同じ無断欠勤でも、

一人だけ懲戒解雇、

他の従業員は口頭注意だけ、

という場合には、

処分の均衡が争われる可能性があります。

■ 処分が重すぎるとどうなるか

処分が違反行為に比べて著しく重い場合には、

懲戒権の濫用となる可能性があります。

例えば、

・軽微な私語で出勤停止

・一回の遅刻で減給処分

・初回の軽微なミスで懲戒解雇

などは、

社会通念上相当性が問題になります。

会社は、

違反行為の重大性に応じた処分を選択する必要があります。

■ 感情的な懲戒は許されない

懲戒処分は、

企業秩序を維持するための制度です。

そのため、

社長や上司の感情で処分を決めることは許されません。

例えば、

「反論したから気に入らない。」

「上司に嫌われている。」

「性格が合わない。」

という理由だけでは、

懲戒処分を正当化することはできません。

■ 調査不足の危険性

会社は、

懲戒処分を決める前に、

十分な調査を行う必要があります。

SNSへの投稿、

ハラスメント、

横領、

情報漏えいなどでは、

事実関係が複雑になることもあります。

十分な調査をしないまま処分を行えば、

後に裁判で無効と判断される可能性があります。

【よくある誤解】

■ よくある誤解①

「就業規則に書いてあれば必ず有効」

就業規則に規定があっても、

労働契約法第15条に反すれば無効となる可能性があります。

■ よくある誤解②

「社長が決めたから従わなければならない」

会社の判断であっても、

客観的合理性や社会通念上相当性を欠けば無効となることがあります。

■ よくある誤解③

「証拠がなくても処分できる」

懲戒事由となる事実については、

客観的な裏付けが重要です。

■ よくある誤解④

「本人の話は聞かなくてもよい」

法律上の明文規定はありませんが、

特に重い処分では弁明の機会を設けることが適正手続の観点から重要となります。

■ よくある誤解⑤

「違反があればどんな処分でも認められる」

処分は違反の内容に見合ったものでなければならず、

重すぎる処分は無効となる可能性があります。

【実務で重要なこと】

懲戒処分を検討する会社は、

まず就業規則を確認し、

懲戒事由に該当する事実があるかを十分に調査することが重要です。

そのうえで、

・証拠を整理する

・本人から事情を聴く

・過去の処分との均衡を確認する

・処分の重さが適切か検討する

という手順を踏むことが望まれます。

一方、労働者としては、

懲戒処分を受けた場合には、

処分通知だけを見るのではなく、

就業規則、

証拠、

処分理由、

調査経過などを確認することが重要です。

会社から十分な説明がないまま重大な処分を受けた場合には、

懲戒権の濫用が問題となる可能性があります。

【まとめ】

会社が懲戒処分を行うためには、

就業規則に根拠があること、

その内容が従業員へ周知されていること、

懲戒事由に該当する事実が存在すること、

客観的合理性があること、

社会通念上相当であることなど、

複数の条件を満たす必要があります。

さらに、

重大な処分ほど、

十分な事実調査や本人への事情聴取など、

適正な手続を踏むことが重要になります。

懲戒処分は会社に認められた重要な権限ですが、

労働者の生活や権利へ大きな影響を与えるため、

法律上も厳しい制限が設けられています。

そのため、

会社・労働者の双方が、

懲戒処分の有効要件を正しく理解しておくことが、不要な紛争を防ぐことにつながります。

★ お問い合わせ

当事務所では、

懲戒処分の有効性に関するご相談

就業規則に基づく懲戒制度の運用

減給・出勤停止・降格・懲戒解雇の適法性

懲戒処分に対する異議申立て・労働審判・訴訟対応

企業の懲戒制度整備・就業規則の見直し

など、懲戒処分に関する幅広いご相談を承っております。

懲戒処分は、その手続や内容によって有効・無効の判断が分かれることがあります。会社・労働者のいずれの立場であっても、お困りの際はお気軽に当事務所までご相談ください。

PREVIOUS / NEXT