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懲戒権とは?会社が労働者を懲戒できる理由と法的根拠を弁護士が解説

日野アビリティ法律事務所

「会社はなぜ従業員を懲戒処分できるのでしょうか。」

「懲戒処分は会社が自由に決められるのでしょうか。」

「就業規則に書いてあれば、どのような懲戒処分でも有効なのでしょうか。」

会社で働いていると、

「始末書を書きなさい」

「減給します」

「出勤停止です」

「懲戒解雇にします」

などと言われることがあります。

これらはすべて、

懲戒処分

として行われる可能性があります。

もっとも、会社は労働者を自由に処分できるわけではありません。

懲戒処分は、労働者の地位や生活へ大きな影響を与えるため、法律上も厳しい制限が設けられています。

また、会社が懲戒権を有している理由についても、

単に「会社だから」という理由ではありません。

労働契約の性質や企業秩序の維持という考え方から、一定の場合に限って認められているものです。

この記事では、

会社が懲戒権を持つ理由、

懲戒処分の法的根拠、

懲戒処分の種類、

そして懲戒権にはどのような限界があるのかについて解説します。

■ 懲戒権とは

懲戒権とは、

使用者が企業秩序を維持するため、一定の場合に労働者へ制裁を科すことができる権限

をいいます。

例えば、

・始末書の提出

・戒告

・譴責

・減給

・出勤停止

・降格

・諭旨解雇

・懲戒解雇

などは、懲戒処分として行われることがあります。

懲戒処分は、

会社が従業員に対して行う注意や指導とは異なります。

労働者に対する法律上・事実上の不利益を伴う制裁であるため、

通常の業務命令よりも慎重な判断が求められます。

■ なぜ会社に懲戒権が認められているのか

会社と労働者との関係は、

労働契約によって成立しています。

労働契約では、

労働者は労務を提供し、

会社は賃金を支払います。

しかし、

会社は単に給料を支払うだけでは、

事業を運営することはできません。

例えば、

・無断欠勤

・業務命令違反

・暴力行為

・横領

・情報漏えい

・セクハラ

・パワハラ

などが放置されれば、

会社全体の秩序は維持できなくなります。

企業は多数の従業員が共同して業務を行う組織です。

そのため、

一定の秩序を維持するためには、

違反行為に対する制裁手段が必要になります。

このことから、

企業秩序維持権の一内容として、

会社には一定の範囲で懲戒権が認められています。

■ 懲戒権は無制限ではない

会社に懲戒権があるとはいえ、

好きなように処分できるわけではありません。

例えば、

社長が気に入らないから減給する。

上司へ反論したから懲戒解雇する。

有給休暇を取得したから降格する。

このような処分は認められません。

懲戒処分は、

労働契約法第15条によって制限されています。

同条では、

使用者が懲戒をすることができる場合であっても、

客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合

には、

その懲戒権を濫用したものとして無効になると定めています。(laws.e-gov.go.jp)

つまり、

会社には懲戒権がありますが、

その行使には法律上の限界があります。

■ 懲戒権の法的根拠

懲戒権は、

法律に「会社は自由に懲戒できる」と書かれているわけではありません。

実務では、

次のような要素から認められています。

労働契約

会社と労働者との契約関係

就業規則

懲戒事由や懲戒処分の種類

企業秩序維持

会社組織を正常に運営する必要性

判例

長年積み重ねられた裁判例

労働契約法15条

懲戒権濫用法理

つまり、

懲戒権は、

会社が当然に持っている権利ではなく、

労働契約や就業規則を前提として認められている権限です。

■ 指揮命令権との違い

懲戒権と似た言葉に、

指揮命令権

があります。

例えば、

「今日はこの仕事をしてください。」

「明日はこの現場へ行ってください。」

という業務命令は、

指揮命令権です。

一方、

「減給します。」

「出勤停止です。」

という制裁は、

懲戒権です。

つまり、

業務を遂行させる権限と、

違反行為へ制裁を加える権限とは、

法的性質が異なります。

■ 人事権との違い

会社には、

人事権もあります。

例えば、

配置転換

昇進

異動

などです。

人事権は、

会社の経営判断として認められるものです。

しかし、

降格であっても、

制裁目的なら懲戒処分、

業務上の必要なら人事権行使、

というように、

同じ結果でも法的性質が異なる場合があります。

そのため、

裁判では、

その処分が本当に人事なのか、

懲戒なのかが問題になることがあります。

■ 懲戒処分にはどのような種類があるのか

会社によって名称は異なりますが、

一般的には、

・戒告

・譴責

・始末書提出

・減給

・出勤停止

・降格

・諭旨退職

・懲戒解雇

などがあります。

軽い処分から、

労働契約を終了させる重い処分まであります。

これらについては、

後のシリーズで詳しく解説します。

■ 就業規則が重要になる理由

懲戒処分では、

就業規則が非常に重要になります。

例えば、

会社が、

「SNSへ会社の悪口を書いたら懲戒処分」

と言っても、

就業規則へその根拠が全く書かれていない場合には、

懲戒処分が問題になる可能性があります。

また、

就業規則が存在していても、

従業員へ周知されていなければ、

有効性が問題になることがあります。

そのため、

懲戒処分では、

まず就業規則を確認することが非常に重要です。

■ 懲戒処分の目的

懲戒処分は、

労働者を罰することだけが目的ではありません。

例えば、

・企業秩序の維持

・再発防止

・他の従業員への注意喚起

・職場環境の維持

・会社の信用維持

など、

様々な目的があります。

そのため、

処分が重すぎれば、

本来の目的を超えてしまいます。

この点も、

後に説明する

「社会通念上相当性」

につながります。

■ 懲戒権濫用法理とは

懲戒権濫用法理とは、

会社が懲戒権を持っていても、

その使い方が社会的に許されない場合には、

懲戒処分を無効とする考え方です。

例えば、

遅刻一回で懲戒解雇

軽微なミスで半年の出勤停止

証拠がないまま懲戒解雇

このような処分は、

懲戒権の濫用となる可能性があります。

労働契約法15条は、

この考え方を明文化したものです。

■ 判例が重視する考え方

裁判所は、

懲戒処分を判断するとき、

次のような事情を総合的に見ています。

・違反内容

・悪質性

・故意か過失か

・会社への影響

・過去の処分歴

・改善可能性

・処分の重さ

・他の従業員との均衡

つまり、

会社が

「規則違反だから処分する」

と言うだけでは足りません。

その処分が本当に相当なのかまで判断されます。

■ 労働者にも義務がある

懲戒権は、

会社だけを保護する制度ではありません。

労働者にも、

労働契約に伴う義務があります。

例えば、

誠実に勤務する義務

秘密保持義務

職務専念義務

職場秩序維持義務

などです。

これらに重大な違反がある場合には、

懲戒処分が認められることがあります。

【よくある誤解】

■ よくある誤解①

「社長なら自由に懲戒できる」

できません。

懲戒権には法律上の制限があります。

■ よくある誤解②

「就業規則に書いてあれば何でも有効」

就業規則があっても、

労働契約法15条に反すれば無効になります。

■ よくある誤解③

「会社が怒ったら懲戒処分になる」

会社が怒っていることと、

法律上の懲戒事由があることは別問題です。

■ よくある誤解④

「懲戒解雇だけが懲戒処分」

戒告や減給なども懲戒処分です。

■ よくある誤解⑤

「会社は懲戒理由を説明しなくてもよい」

処分内容によっては、

合理的な理由や手続が重要になります。

説明が不十分なことは、

後に裁判で問題になることがあります。

【実務で重要なこと】

懲戒処分を受けた場合には、

まず、

・就業規則

・懲戒事由

・証拠

・処分理由

・処分手続

を確認することが重要です。

一方、

会社側も、

感情的に処分を決めるのではなく、

十分な事実調査を行い、

就業規則に基づいて慎重に判断する必要があります。

処分が重くなるほど、

裁判で無効と判断されるリスクも高くなります。

そのため、

処分前の調査、

本人への事情聴取、

証拠収集、

処分内容の相当性の検討が重要になります。

【まとめ】

懲戒権とは、

会社が企業秩序を維持するため、

一定の場合に労働者へ制裁を科すことができる権限です。

しかし、

会社は自由に懲戒できるわけではありません。

懲戒権は、

労働契約、

就業規則、

企業秩序維持の必要性を根拠として認められていますが、

その行使は労働契約法第15条によって制限されています。

懲戒処分が有効となるためには、

就業規則に根拠があり、

客観的合理性があり、

社会通念上相当であることが必要です。

会社が感情的に重い処分を行った場合や、

適切な手続を経ていない場合には、

懲戒権の濫用として無効になる可能性があります。

懲戒処分は、

労働者の生活や将来に大きな影響を及ぼす重要な処分です。

会社・労働者の双方が、

その法的ルールを正しく理解し、

適切な対応を取ることが重要です。

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