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<解決事例>過労死事件の裁判において、役員個人の責任を認める判決が出ました

当職が控訴審から原告(控訴人)代理人として参加した過労死事件において、直接の使用者である会社だけでなく、その役員個人の責任を認める判決が出ました。

本件の被災者は、Y1社で当時営業技術係係長を勤めていたAさん(当時51歳)で、2011年(平成23年)夏に脳出血を発症して亡くなりました。Aさんの残業時間は、発症前1か月目においては85時間48分、発症前2か月目においては111時間09分と、いわゆる「過労死ライン」と言われる残業時間月80時間を越えていました。そのため、労災認定は弁護士が助力するまでもなく出ました。

しかし、労災認定が出た直後の2012年12月、Y社は株主総会で解散決議を行い、会社を解散させた上で、新会社を設立し、同じ工場の敷地内で引き続き操業を始めました。これは、遺族からの損害賠償請求を免れるための偽装倒産を疑わせるものといわざるを得ません。ただ、これによりY1社は形骸化し、損害賠償を行う資力がなくなってしまいした。

そこで、Aさんの遺族は、Y1社だけでなく、取締役会長のY2氏、代表取締役のY3氏、取締役でAさんが所属していた工場の工場長のY4氏も被告として、損害賠償を求める訴訟を提起しました。

しかし、一審判決は、Y1社の損害賠償責任は認めたものの、取締役3名の責任は認めず、しかもAさんに基礎疾患(高血圧)があったことを理由に過失相殺の類推適用を行い損害賠償額を7割も減額する旨の判決を出しました。7割という大幅な減額自体が不当ですし、Y1社の責任しか認めないとなると遺族は損害賠償を受けられなくなるため、事実上の敗訴判決でした。

これに対し、遺族は控訴し、取締役らの責任を認めることと、過失相殺の類推適用をすべきではないことを改めて主張立証しました。

その結果、1月21日に出された二審判決では、取締役のうちY4氏の責任を認め、過失相殺の類推適用を5割に変更する判決が出されました。二審判決は、Aさんに過労死のおそれがあることを容易に認識することができ、実際にもかかるおそれがあることを認識していたにもかかわらず、Y4氏は、従前行っていた一般的な対応に留まり、Aさんの業務量を適切に調整するための具体的な措置を講ずることはなかったと認め、Y4氏には職務を行うについて悪意までは認められないとしても重大な過失があったと認め、損害賠償責任を認めました。その一方で、Y2氏とY3氏の責任を認めなかったことと、損害賠償額の5割減額を認めたことは問題だったといわざるを得ません。

とはいえ、過労死事案等につき、会社が倒産するなどして会社から損害賠償を得ることが困難となった事案でも、取締役個人に対し請求する道筋をつけることができたという点で、本件判決は意義のあるものだったといえます。

Aさんの遺族は、二審判決の敗訴部分を不服として上告・上告受理申立を行いました。遺族の権利を守るため引き続き尽力して参ります。

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